Why did you…?
 






思い出せと言われて思い出せる事はそう多くない。
思い出すなと言われて思い出す事は多いけど。










 だけど、あれだ。過去なんて、そう大切な物じゃないんだよ。本当は、本当に大切なのは、今、これからだけだと思うんだ。思い出なんて物はいくらでも作れるし、忘れたくないといっても忘れるに決まってる。実際、俺だって悪魔化する前は一体何食って生きてたかなんて欠片も覚えて居ないし、もし覚えていたとしてもあまり意味が無いだろう。思い出した所で、その生活に戻る事は不可能なんだから。だから、つまり、えぇとそう、あれだ。過去なんてのにこだわるのは良くない。
 過去は所詮、未来への踏み台に過ぎないから。




「…なぁ、兄貴」
「ん?どうした」
「最近になって不思議だって思ったんだけどさ…どうしてオレの事エンブリオンに誘ったんだ?」



 突然、本当に突然の質問だった。
 一体何事かと見返したシエロの顔は、ごく普通の真顔で、冗談を言っているようには見えなかった。あ、いや、まて、俺。こんな事、冗談で聞かれるのは嫌かもしれな……あっ!いや、もう少しだけ待て、俺。冗談で 聞かれたほうがまだましだったのかも知れない。これだけは。
 なぜなら



「俺…誘ったっけ?」
「…もしかして忘れちまったとか?」
「正直…ごめん」



 今一緒に居る事があまりにも普通過ぎたから。だから、何故一緒に居るのかなんて考えた事すら無かった。気がついた時には、この五人が一緒に居るという事は、あまりにも普通の事過ぎた。
 だから、『どうして』なんて質問には答える事が出来ない。適当にあしらうには、シエロは身近すぎる。身内に、嘘なんてつきたくない。この思いがどこから出てくるのかなんてわからないけれど。


 バツが悪いという気持ちを抑え切れないまま、真実を暴露した俺に、シエロは信じられない、という表情を向けた。
 非難するような視線を向けられると、俺が悪い訳じゃないのに(シエロにとってどうかは知らない。俺の、あくまで俺の考えを基準にして、俺が悪いわけじゃないというだけだ)申し訳ないという気分になるから不思議だ。

 非常に複雑な俺の心境を知ってか知らずか――というまでも無く知らないのだろうが――シエロが、かつての俺を教えてくれた。



「お前をニルヴァーナへ連れて行く。だから俺に従え〜…って言ったんだけど…ホント覚えてない?」
「………あ、あ〜…」



 …そういえば、そんな恥ずかしい事を言ったような気がする。それはなんとなくわかる、
 でも、でも、だ。
 何で声をかけたのかは本当に覚えていない。シエロの何を気に入って、俺が声をかけたのか、それだけは思い出せない。







全てを凌駕するヒートの力が欲しかった。
一撃必殺を誇るアルジラの力が欲しかった。
全てを見通すゲイルの頭脳が欲しかった。









 それらは、ちゃんと、覚えているのに。


「なんていうかさぁ…ゲイルとかは分かるぜ?あんとき一緒に居た連中の中でも飛びぬけてたし…」



 どれだけ、己を卑下すれば良いのだろうか。いや、確かに、今も幹部として生きている彼らと比べてみれば、シエロなんてものの数か無いかもしれない。
 後ろを見ることなく先しか見ない上にそれでも全てが成り立つヒートとか、悲しみに支配されても先へと行き続けることの出来るアルジラとか、一人だけ全く変わらない強さを持ち続けるゲイルとか。



 けれど、さぁ。俺は思うんだ。
 何考えてるんだと言われても可笑しくない事を思うんだ。



「でも、オレは…」



 そう言ったきり、口ごもるシエロの頭を乱暴になでる。非難の声が上がるが、気にしない。



「あの時の俺が、何を考えていたか覚えてはいないが」



 俺の…いや、俺が持ち始めた持論に、たとえどんな事が起きようと、一つだけ変わらない物がある。すなわち、過去は意味なんて無い。
 結局、どれだけ考えてもあの頃の自分の事に戻る事が叶わないのならば



「今、一緒に居て、楽しいか?」
「はぁっ?ん〜……まぁ、うん…楽しいけど…」
「なら良い。それで終わりだ」


 一番大切なのは、『これから』でも、『これまで』でもない。
 全ては、そう、『これから』も、『これまで』も、『今』から作られる物なのだから。それに、意味など求めてはいけない。




「え、でも…オレよりも使える奴はたくさんいたじゃん!」
「お前より使えなかったかもしれない」
「そんなのわかんないだろ!?」
「あぁ。わからないな」




 けれど、今は一瞬だ。だから、不安に思っても仕方ない。これからを、これまでを想って不安になる事は、俺達に、人間にのみ赦された、たった一つの不幸だから。





「だが、それを言うなら逆もしかりだ。俺についてこなくても良かった…そうだろ?」
「…っ!……で、でもよ、それは……」





 俺は、だから、えぇと、そうだ、俺はまさに今、シエロに何かを言わなければいけない。こいつの、シエロの、俺すら覚えていない過去への確執を取り除かねばならない。それが、エンブリオンのリーダーである俺の義務だ。と、俺の中の何かが言うのだ。




「俺は、今、この瞬間、シエロと一緒に居てよかったと、思っている」
「……?」
「過去を考えても仕方ない。過去はもう二度と戻らないからだ。だから、今を想え。今、共に居て楽しいという事を想え」



 今、この瞬間。
 次々と沸きあがる理不尽な感情と同じように、全てのモノに不安と疑問が付きまとう。けれど、今この瞬間に、歓喜となって、喜びとなって浮かぶ物があれば、それはそれで良いと思う。だから




「俺は、シエロと共に居る瞬間が好きだ。だが、お前がそれ以外を思うなら、迷うことなく俺に進言しろ。いくらでも便宜は計らう」
「誰がそんな事言ったよ!俺は、俺だって、兄貴と一緒に居て楽しいって思ってるのに!」





 だけど、だから、もしかしたら



「きっと、あの瞬間の俺も、その言葉が欲しかったはずだ」
「……え…?」
「今、楽しいと思っていてくれて嬉しい。俺が言えるのは、これだけだ」
「…………兄貴……」



 哀しみとか、怒りとか、それ以外にも何かあるはずだから。




 こいつは、何時か必要になる。その瞬間に、自分と共に行動していなければ損になるほどの存在だ。
 例え、世界中の誰もがこいつの存在を否定しても、俺だけは認めよう。そうだ、力だけではない、頭脳だけではない、何かが。




「だから、過去になんてこだわるな。俺には、今、お前が必要だ」



過去なんて意味が無い。理由なぞ、己に意味が無いと思っている人間が求め縋る事でしかない。


 今一緒に居てくれて嬉しい。今、この瞬間、楽しいと思っていてくれて嬉しい。




 今ならわかる。エンブリオンは、今、この瞬間のためだけに構成されたんだよな?



「安心しろ。今以上に、大切な物などないのだから」


 だから、永遠に笑っていて欲しい。たとえ、何が…いや、どんな哀しいことが起きたとしても。きっと、もしかしたら多分だけど、俺は、お前に、それを期待していたかもしれないのだから。




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激しく中途半端…。オチの見えないネタばかり浮かびます(滅)
シエロがひたすら不思議に思う今日この頃。彼だけ飛びぬけた何かが(覚醒前に)無い様な気がます。




勝手に考えてみたニュービーがトライブになるまで。

1:根城となるであろう場所(潰されたトライブのアジトなど)にニュービー達が集まる
2:小規模なグループが結成されていく
3:グループ同士の潰しあいが始まる
4:頂点に君臨したグループのリーダーが、カルマ教会からトライブの長として認められる

番外:グループ間の掟は、トライブ間の掟と一緒。
番外2:ニュービーは、現存トライブに入ることも出来る。

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一目見た瞬間、彼が欲しいと思った
一緒に居てくれたら、きっと良い事が起こると

来い

俺と共に来い
そういうと、彼は無表情で頷いた

あんたについていけば、ニルヴァーナが見える気がする

その瞬間、胸に沸き起こった思いを彼は知らないだろう
今なら分かる
あれはきっと、嬉しい、と言う思いだ