嬉しそうな笑みを浮かべた青年(年齢的には少年だが、誰がどう見ても青年だった)と友人関係になって二日後。
トトは、彼の誘いで、今まで守護していた墓を、今までと全く逆の目的……即ち荒らす為に潜っていた。隣では、二つはさんだクラスに在籍する全校的に有名な石マニアが、いちいち仕掛けに頬を染めながら歩いている。
ある意味偏った趣味の持ち主に、どう接すれば良いのか解らぬままその日の遺跡探索は地味に盛り上がっていた。



「はい二人は下がってて!」

一見、何も無いように思える部屋に入った途端、地上で穏やかに微笑む姿からは想像できない笑みを浮かべ、青年は腰からナイフを取り出し走り出した。
それは、まるで気が違ったかの様な行動で、さしものトトも、彼についてきたのは何かの間違いかと思ってしまったほどだ。だが、青年がある一線を越えた瞬間、ただの壷だった物が割れ、中から浮揚する機械と蜘蛛が現れた。
異形に比べ、あまりに無防備に駆け出す青年が無力に見え、トトは思わず足を踏み出した。その肩に、色白な手が置かれる。
何事かと振り返ると、大切そうに石を抱えた少年がじっと見ていた。
トトの足が止まったと見るや、彼はにんまりと笑った。

「彼なら心配要らないよ」
「デモ……」

微笑み(と言うには微妙に黒い物が見え隠れするが)を浮かべ、彼は言い切る。不安気な空気にひるむ事無く、少年は目を眇めた。

「何せ、彼はここらへんの仕掛けや相手はほぼ全て記憶しているらしいからね。そう苦労する事は無いよ」
「ソデスカ……」
「そうそう。それより……君、石は好きかい?」
「……石?」

全く脈絡の無い言葉に、トトの頭が止まる。
そういえば彼は石マニアだったか、と今更、と言うよりあまり関係の無い記憶が思い浮かび、漸く思考が繋がった。しかし、今何故この状況で。
不思議そうなトトに気付く事無く、少年は懐から石を取り出した。一体どこにどうやってしまっていたんだと聞きたくなるような大きさだ。
あっけに取られるトトに気付く事無く、少年はまるで愛しい女性を見るような目で黒光りする石を撫でている。

「君と知り合いになるちょっと前にね、この石(こ)を見つけたんだ。……でも、この石が探していた人はどうやら君みたいでさ」
「……?」

一体何を言うのだろう、と不思議そうな顔をしていたトトに、ある意味衝撃的な言葉が降りかかる。

「だから、残念だけど、君にあげるよ」



「……ボクニ、デスカ?」
「うん。……大切にしてよ?」

一瞬、新手の嫌がらせ、と言う単語が脳裏にひらめく。
その考えを閉じ込めたのは、今機械や蜘蛛と戦っている青年だった。いや、彼そのものではなく、彼の思想……即ち、近寄らねば物事は解らない。倦厭されても近寄れば何とかなる、と言うほぼと言うより体当たりそのものの考え方だったが、意外とトトは気に入っていた。
大丈夫、と自分に言い聞かせる。
良く見れば、彼の表情も嫌がらせとは無縁の、真剣な表情だった。
彼は、石が自分を探していたと、そう言った。
もしも彼の言っている事が真実ならば、この石は、この世界でただ独り、自分とめぐり合うために彷徨っていたのだろう。手を差し伸べてくれる人を望みながら。
終わったよー、と青年の声が遠くから聞こえる。その声にせかされるようトトは少年から石を受け取り、胸を叩いた。

「ワカリマシタ。ボクノスベテヲカケテ幸ワセニシマス」
「さすが九龍君の見込んだ人。君ならば、そういってくれると思っていたよ」

一瞬、意外そうに石を受け取った相手を見ていた自称平成の石博士は、そう言って、盛大に、そして嬉しそうに笑った。

あぁ、彼は本気だったんだ。

手にした石は、まるで自分との会合を喜ぶかの如く、仄かに温かみを帯びていた。


黒塚君が、隕石は別な人を探していると言うのを聴いた瞬間、何の問題も無く「あぁ、トトのことか」と思ったんですが違うんですか!?(聞くな)
そんなわけで妄想。
あのシーンで黒塚君が助けに来ると、あの子は葉佩の物になっちゃうんですが……って書くと引き裂かれた恋みたいだななんか……。

黒塚君って実は凄い良い男なんだと思います。
好きの対象とその勢いがちょっとばっかり行き過ぎただけで。
嫌いじゃないけどあの思考回路と行動パターンと台詞回しは難しすぎる(がくり)


戻る




















君のような人に会えて
きっとこの子も幸せだね
残念かって聞かれればそりゃ残念さ
でもね
僕は、この子達が喜んでくれれば
それだけで良いからね