その先にあるもの
あたしの目はヘンだ。たまに未来が読める。
観えるわけじゃない。読めるだけ。近い未来に誰かが喋る言葉が、あたしの目の前で文字となって展開されていくのだ。
それは望む望まないに関わらず、あたしの目の前で展開される。
「皆守」
「……どうした。九龍」
「あたしは、あんたを信じてるよ」
「いきなり何を言い出すかと思えば……どうしたんだよ、いきなり」
「さぁ。自分でもよくわからない」
風が吹き、あたしの髪の毛を撫ぜる。
首筋に髪先が当たり、あたしは首をすくめた。従兄に似せて短く切った髪の毛に未だ慣れる事はない。彼の代わりになったトレジャーハンターは、あっという間に慣れたって言うのに。
「おい、寒いんじゃないのか?」
「そうだね。皆守。暖めてくれる?」
「その前に、寮に帰ろうって話にはならないのかよ」
「あのさぁ……女が誘ってるのにその台詞は無いんじゃない?」
「……誘ってるようには全く見えなかったんだが」
「………悪かったね。どうせあたしには双樹さんみたいな色気はないよ」
「どうしてそこで双樹の名前が出て来るんだ」
「あら。響君のほうが良かった?」
「……アイツは男だろ」
「それもそうか。……じゃぁ……」
一瞬、男の顔が思い浮かぶ。
忌々しい墓守め。次会ったら首でも絞めてやろうかしら。
……いや、別に彼は嫌いじゃない。嫌いじゃないし忌々しいって思った事も無い。彼だって色々あるのだ。
でも、なんていうか……腹立たしい。
彼の名前を言ったらどうなるだろうと思ったけれど、でもそれは駄目。彼と、あの男の関係に気がついている言葉に繋がってしまうかもしれない。
あたしはまだ何も知らない。
その瞬間になるまで、あたしは、何も知らない。
「もう良いわ。双樹さんで。色気の代名詞だもの」
「……それは否定しないけどよ……」
投げやりを装った言葉に、皆守が同意する。
『お前らとはここでお別れだ』
「ねぇ、皆守。あたしは、あんたにとって良い友達?」
「……そりゃ……まぁ、な。変な奴だが、それなりに付き合ってて楽しいし……」
「残念。それなりって言葉が無ければ合格だったのに」
「合格って、お前親友を試してたのか?」
「知らないの?人生ってのは、全てが試験。試されていない瞬間なんて無いの」
例えばこんな風に。
くるりと彼の方を向いて、ほんの少し高いところにある唇にキスをした。
驚いたような表情をする彼を見て、未来が読めた瞬間には僅かだった征服欲が、抑えきれないほど膨れ上がる。あぁ、もう。こういうのは普通、男の人が思うことじゃないの?
『会長が残るってのに、副会長が残らないわけにはいかないだろう?』
カタカタと、まるで機械が打ち出すような音を立て、彼の言葉が目の前に打ち出される。
結末は、その瞬間になるまで分からない。来るべき未来に一体何が起きているのかも、あたしには想像すら付かない。
だけど……彼は、誰にも渡したくない。
「不合格の罰ゲームよ。今日とは言わない。だから、今だけはあたしだけの物になりなさい」
男としては細い彼の身体を押し倒し、頬をなぞる。
「ちっ……似合わねぇ事やるんじゃねぇよ」
そういって、皆守はあたしの頭を撫でた。その感触が案外気持ちよくて、あたしはただ、彼の胸に顔を埋めた。
酷いよ。
どうせ何時か突き放すくせに、こういうときだけ優しくしないで。
ほんの少し、寂寥感が浮かび上がる。
あぁ、この瞬間も後僅かなのかもしれない。
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