新たな旅立ちと
「本当に良いのかい?」
「今更聞きますか?もうあちらには話を通してある癖に」
「……いや、俺が言いたいのはそこではなく……」
深夜の墓地に、低い声が響く。
数日前に降った雪、数日前に掘り返され終わった墓地。
最後の方に救出された人間は、何で死んでなかったんだろうな、と全く関係ない事を思いながら、緋勇は口ごもる鴉室を見て噴出した。
「解ってますよ」
「あ?」
「皆に、挨拶しなくて良いのかって事でしょう?」
笑いながら、少し大きめの鞄を背負いなおす。
鞄の中には、来た時よりもかなり減った生活用具。遺跡の中で手にした物や、何故かこなしてしまったクエストの報酬品は、緋勇にして見れば不用品だった為、ロゼッタ協会に引き取ってもらった。無論、現金と引き換えに。
友人各位から貰った物は、たとえ不要だとしても捨てたり売ったりするわけには行かなかった為、ジェイド改め如月に頼んで一足先に某所へと送ってもらった。
これらは全て秘密裏に行われた事で、誰も、彼がこれからどこかに行こうとしている事は知らない。
「良いんですよ。別れの言葉なんて、知りませんから」
「いや、そうじゃなくてだな……俺は、卒業式に出なくても良いのかってことを聞きたいわけで……」
彼の台詞は恐らく好意なのだろう。だが、緋勇はついつい失笑してしまった。
そりゃぁ確かに、たった三月しか在籍してなかったとは言え、この学園には相当の想い出がある。恐らく、真神学園と同じぐらい。ここで出来た友人や仲間達と過ごした日々はとても楽しかった。
そのシメとして、卒業式を共に、というのも良い想い出になるだろう。
だが
「鴉室さん」
「なんだ?」
「23になって、学ラン着て高校の卒業式に出るのは流石の僕でも痛いんです」
「だが、十分似合ってると思うぜ?」
「…殴りますよ?」
「おっと、それだけは勘弁してくれや」
君の拳は癖になりそうだからな、とふざけたように笑う探偵に、緋勇もそれならば仕方ないですね、と呆れたような笑みを浮かべた。
深夜の墓地を照らす月光
薄らと積もる雪の上の足跡
外へ通じる抜け道
ふと振り返れり見れば
懐かしき寮の明かり
決して別れは言うまい
きっと、何時の日にか会えるのだから
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