余計なお世話




図書室へ入った真里野が最初に目にしたのは、楽しげに七瀬と語らう葉佩の姿だった。
何を喋っているのだろうか。
胸の奥に、黒いもやが溜まる。あぁ、みっともない。拙者は本を読みに来たのだ。だから、彼女を見に来たわけでもなく、彼女と言葉を交わしにきたわけでもない。彼女が誰と言葉を交わしていても、それは関係の無い事。自分は、本を読みにきたのだから。
幸い、二人ともこちらには気付いていないらしい。それだけ話に熱中しているという事か、と思わず切なくなりかけ、頭を振った。このような事では、真里野家の先祖に申し訳が立たない。

本を見ようにも、葉佩の旋毛と、七瀬の笑みが視界の端に映りこんで離れない。

あぁ違う。
本棚へと意識を向ける。
小難しい表情で本を吟味する着物姿の男を、図書室の常連は変な物を見る目で見る。常連じゃない生徒たちも、あからさまに似合わない姿に小首を傾げている。
真剣に背表紙を追っていた真里野の視線が止まった。



何を読めば良いのか分からない。何を読めば、彼女は…………いや、何を読めば鍛錬に繋がるのか。



背表紙に意識を向けていたつもりが、いつの間にか視界の中には七瀬と葉佩の横顔がある。全く気付かぬうちに、二人の姿が良く見える所に移動していたらしい。

関係ない、と武道関係の本棚へ移動しようとしたその時

七瀬から、何かが葉佩へと手渡された。恥らうように、あたかも恋人への贈り物であるかの様に。
ありがとう。
葉佩の唇がそう動いたのが見えた。手帳を取り出すと貰った物を丁寧にしまいこんだ。手帳をポケットに入れる前に、あ、と七瀬が言葉を漏らし、彼から手帳を借り受ける。
備品置き場からボールペンを取り出すと、何事かを書き綴った。
ごめんね、ありがとう本当に。後で連絡するから。
僅か近づいただけなのに、先ほどよりも鮮明に言葉が聞こえて来る。
まるで恋人同士のようだ、という思いが頭を過ぎるか過ぎらぬかのうちに、足は図書室を出ようと扉の方へと向いていた。





「あれ……真里野さん……?」

突然、背後から遠慮がちな声が聞こえてきた。
振り返ると、驚いたような葉佩の顔があった。あたりを見回すと、七瀬の姿は当に無い。話が終わり、恐らく己の持ち場へと戻ったのだろう。
どこか安心すると同時、残念だ、と言う気持ちも湧いてくる。
全く持って馬鹿らしい
と、真里野は目の前に居る少年へと意識を向けた。こうして改めて向かい合ってみると、己よりも僅か背が高い事に気付く。
これで、人の顔色を伺うような表情さえなければ良いのだが。

「……あっ!貰ってこようか?プリクラ。七瀬さんの」

無意識のうちに顰められた眉に、葉佩は何を勘違いしたか、司書室へ行こうと踵を返した。おいまて、と肩に手を置くと、まるで雷に打たれたかのように肩が跳ねる。
振り返った目に、微かに怯えの色を見つけ、真里野は思わず嘆息した。
そこまで嫌わずとも良いだろうに、と。

「何ゆえそのような言葉に達する……。…拙者は本を読みにここにきたのだ。それ以上でもそれ以下でも無い。……昼休みは生徒が好きにして良い時間だ。拙者が本を読みに来たとして、なんら変な事では無いだろう?」
「……え?……あぁ、うん。変じゃないね」

妙に言い訳臭くなった、とは思わない。いや、実際言い訳なのだが。自分に対する。
口では分かったと言いつつも、葉佩の目線は司書室と真里野を行ったりきたりしている。七瀬から、連絡先を書いてもらったであろう手帳を弄びながら。

いい加減、図書室から消え去りたい。
そんな真里野の思いとは裏腹に、葉佩は言葉を捜すよう微かな唸りを上げ続ける。
恐らく気を使ってもらっているのだろう。だが、それならば逆に、己に構わずに居て欲しい。
正直な気持ちを打ち明けようと、口を開いたそのとき。あたかも狙っていたかのように、葉佩の口が開かれた。


「……あの……真里野さん?」
「………………なんだ」
「うん。今日、探索なんだけどね……七瀬さんも憑いてきてもらいたいんだけどね……」

微妙に発音が違って聞こえたが、この際聞かなかったことにする。

「…………それが拙者とどう関係ある…」
「いやっ!その……関係……」


とてつもなく気弱な目だ。先日、己からの勝負の誘いに受けて立つ、と即答した光はそこに無い。
全く持って不可解だ。何故、七瀬はこのような男の為に危険を冒したのだろうか。……いや、このような男だからこそなのか。

苛々している真里野に怯えるよう、葉佩は上目遣いで彼を見つめ言葉を紡ぐ。

「関係は……その、俺だけだと不安だから……一緒に……その、真里野さんも……」

来てください。
それだけを、本当にひねり出したとしか言いようの無い声で呟くと、真里野の返事も聞かず、あっという間に図書室から消え去った。

「……なっ…………」

何ゆえ拙者に、と聞き返す事も、相手が居なければできるはずも無い。


複雑すぎる真里野を残したまま、図書室の昼休みは過ぎていった。



〜〜〜〜〜〜




九龍一つ目なのに、何ゆえコンビと内容がアレなのか。
なんともほほえましすぎる馬鹿ップル(ある意味)に振り回されるハバキング。
……今現在、七瀬さんを落としてしまった罪悪感に駆られている真っ最中の
葉佩より、真里野さんに向けて送ってみました。以上。





ちなみに。
葉佩→真里野:どう接して良いかわからない
葉佩→七瀬:真里野の衝撃吸収剤権色々教えてくれる人
です


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好意は、好きだって気持ちは、その心を曇らせやしない。
その気持ちは恥ずべき物ではなく、寧ろ強さへの第一歩で。

いや、だからなんだっていうと、その。

えぇとつまり、好きだって気持ち認めてくれると嬉しいかなとか。
俺は、貴方の気持ちを応援するよ?
ほら、俺は貴方の友達だし!