「原田さんには負けらんね!」
「おう、上等じゃねぇか!こっちこそ手加減しねぇからな!泣いてもしらねぇ……うおっ!!」
「おらの方が雪さ慣れてんだ!原田さんさ勝ち目はねぇ!」
「くっ……吉村てめぇ、不意打ちは卑怯だ……つめてぇ!」
「卑怯じゃねぇ!作戦だぁ!」
「てめぇ……俺を怒らせたな!後悔させてやる!!」




起きたら外が煩かった。
布団から出るのも億劫になる寒さに閉口しつつ、適当に服を着込むと藤堂は障子を開けた。
視界に飛び込んできたのは一面の雪景色。の中で雪まみれになりながら雪合戦を繰り広げる二人。


「…………何やってんの?」


思わず口から出た言葉に反応する者は誰も居ない。




と、言うよりも、だ。




実際の所、吉村も原田も、何故自分達がこんな事(=雪合戦)を繰り広げているのか、きっかけは全く覚えていなかった。最初はただ、雪が積もっていて、原田が喜んで、吉村がはしゃいでいただけだったはずだったのだが……気がついたら吉村の手には雪球が握られており、気がついたら原田の顔面を直撃し、気がついたら二人っきりの雪合戦に発展していたのだ。

普段無口で薄ぼんやりしている吉村も、このときばかりとはしゃぎまくり、一応先輩であるはずの原田へと欠片の容赦も無く雪球を投げつける。原田も己の意地にかけて負けられるかと、雪球というよりも雪の塊を作ってはそれに応戦している。


平和だ。限りなく、平和だ。
だが、寒い。
景色ばかりか吐く息も真白だし、犬でさえ己の小屋に引きこもったままでてこようとしない。


二人とも、良くこんな寒いのに遊べるなぁ、とため息をついた藤堂だったが、その視界の端で原田と吉村が視線を交わし笑った姿を見ていなかった。


「先生もまざっぺ!!」
「お前一人あったけぇ所に居るなんて卑怯だぞ!」


楽しげな声と共に飛んできたのは大量の雪の塊たち。
完全に不意をつかれる事となった藤堂は、頭から雪を被る羽目になった。


「わっ、ちょっ……二人とも、冷たいって」
「当たり前だ!雪はつめてぇもんだ!」
「そうだそうだ!折角だから遊んでけ!」
「どういう理屈だよ、そ……うぷっ!!」
「まっしろけー!」
「雪にまみれろっ!」
「まっしろしろすけ〜!!」
「訳わかんな…うわっ、ちょっ……ふたっ……ぶっ……」


反論の隙も考える余地も逃げる暇も与えず、二人は次々と雪を投げつける。既にそれは雪玉と言える物ではなく、ただ単に雪をまとめた塊のような物体になっていた。
二人の、雪玉を作る暇があるなら投げてしまえ、と言う気持ちがかなり良く伝わってくる。
そんな二人の猛攻撃を受けた藤堂、一応冷静ぶっているとは言え、元々血の多い「魁先生」である。ぷちっときれた。


「二人とも、いい加減にしなよ!!」
「わ〜い、怒った〜!」
「へっ、やれるもんならやってみな!」


そういうわけで。
一対一の雪合戦は、単なる雪のぶつけ合いへと発展した。




「………………」
「楽しそうですねぇ」


まるで子供のように雪のぶつけ合い(決してそれは、雪合戦と言えるものではなかった。雪合戦と称したら、雪合戦に失礼だ)に興じる三人を、沖田と土方は縁側から眺めていた。
沖田は笑顔で、土方はかなり渋い表情で。


「僕も混ざって……」
「やめておけ」


いいですか?と続くはずだった言葉を見事にぶった切って土方がため息をつく。
あいつらは一体何歳なのだろうか。というよりも、己の立場をしっかり理解しているのだろうか。
町の人々や不逞浪士には間違っても見せられない姿を晒す三人の姿にため息がでる。ついでに、少しばかり頭痛もしてきた。
戻るぞと踵を返した土方の背後に、殺気も作為も悪意も害意も全くない雪の塊が飛んできた。




そして




「あ」


ぼすっ。というより他にない音が沖田の耳に届いた。


「………」
「あちゃー見事に命中しちゃいましたねぇ…」



笑う沖田の目の前で、後に鬼と呼ばれる男の頭に角が生えた。




「吉村……原田……藤堂……」
「え?」
「あ……」
「げっ」


誰が投げたのかも知れぬ雪を払い落とす事もせず、背後に炎を出しそうな勢いで土方が庭の三人をにらみつけた。その横では、あははと朗らかな声を立て、沖田がのんきに笑っている。(そして土方の怒りを確実に増徴させている)
うっかり何か言ったら土方の怒りが爆発しそうな状況の中、突然吉田が叫んだ。


「にげっぺ!」
「おう!」
「え、ちょっと、オレ今裸足なんだけど……!」


今ここで立ち止まってしまえば、土方の怒りの説教を延々と聴く羽目になる事は解っている。が、自分の怒りが解けた今、雪の中、裸足で居るのは正直辛かった。というより、足が痛い。
せめて草履でも、と振り返った瞬間、視界が反転した。一瞬の間に見えたものは、アレだけ雪を投げたというに殆ど雪の減っていない地面。一体どれだけ降ったんだと呆れる前に、見覚えのある色が目の前に広がった。


「吉村!?」
「よしにげっぺ!」
「良し、じゃないだろ!!」


軽々と藤堂を担いだ吉村が、意気揚々と駆け出した。
抗議しようにも、吉村の走りに合わせるよう、べすべすと揺れては顔に当たる髪の毛に邪魔されて上手く喋れない。だからと言って、背中を叩くのは何故か躊躇われた。……何だか、男らしくない気がしたのだ。
一旦諦めて顔を上げると、相変わらず笑っている(しかも指まで差されている)沖田と、怒りに顔を引きつらせたままの土方の姿が目に映った。



帰ったら説教かぁ……。



正座させられ、延々と説教を食らう自分達の姿が見えたような気がして、藤堂は諦めのため息をついた。




どうやら、制止の言葉はどこかに掻き消えてしまったらしい。
あっという間に遠くなる三人の背(一人は背ではなく、しっかりこちらを見ていたが。かなり諦めの入った表情で)を見ながら、土方はぐっ、と拳を握り締めた。彼も冷静ぶっては居るが、中身はかなり熱い人。それでも待て、と叫ばなかったのは、辛うじて残っていた副長としての面子の所為だ。
あいつら、と震える拳の行き先を決められぬままで居ると、相変わらず笑ったままの沖田が口を開いた。


「土方さん土方さん」
「なんだ」
「あれって、敵前逃亡ですかねぇ」
「…………」


俺は敵か、と言う前に、突然吉村が立ち止まったのが見えた。
まさか戻ってくる訳でもあるまい、と思ったその瞬間


「ぼさーっとしとる副長もいげねんだ〜!!べーっだ!」
「なっ……」
「吉村!」
「これ以上土方さんを刺激すんじゃねぇっ!」
「いたっ!」


囃す様に叫び、舌を出した吉村が原田に殴られた。
あまりにも平和と言うより間の抜けた光景に、土方は、こんな姿、絶対に不逞浪士には見せられないな、と心の奥底でため息をついたのだった。

















「雪だ」


不意に、吉村が呟いた。
空からは絶え間なく雪が降っており、伊東の死体を静かに覆って行く。
彼の刀からほたほたと落ちていく血が、雪を赤く溶かしていく。


「良いね、雪。もっと降らないかな」
「吉村……」
「積もったら、雪合戦でもしよう」


そう微笑んで問いかける吉村に、原田はああ、と答える事しかできなかった。





今はもう雪が降りませんが、これを書き始めた時には降ってました(言い訳)


とりあえず脳内吉村設定ですが。
・ずーずー弁(結構いい加減)
・山南さんと山崎さんに指南を受けた為、標準語も喋れる
・超力持ち。近藤さんもお姫様抱っこできる
みたいな。

ちなみに無双で例えるなら凌統ポジションです(解り難い)



















































雪よ降れ、もっと降れ
悲しみも
苦しみも
憎しみも
楽しい思い出さえも
全てを覆い尽くすように