close to……
 



貴方の傍に居られたら
皆と居る事が出来たなら
私は、どんなに幸せでしょう




日の光が差さないため元々暗いジャンクヤードだが、一定周期で更なる闇に閉ざされる。その時ばかりは、常に抗争しているジャンクヤードも7割方静かになる。7割、と言うのは、半分以上の者がそれぞれのアジトで眠るも、残りの者は急襲に備え、縄張り内を見歩いているからだ。

無論、普段は彼らに混じって不寝番もしているサーフ達だが、明日にブルーティッシュを陥れる作戦を控えているという事で、皆揃って眠るよう、ゲイルから言い渡されていた。
当初は、緊張して眠れないとぼやき、半分以上眠っているサーフ(ちなみに、ヒートに声をかけたら殴られた)に話しかけていたシエロも、時が経つにつれて語尾が不明瞭になっていき、気がついた時には眠っていた。


時折、見張りの者が交わす会話以外に音も無く、しん、と静まり返ったムラダーラに、一筋、あるはずの無い光が差した。


「…es……heven………」


明日行うはずの、計画の見直しをしていたゲイルは、その音に気づいて顔を上げる。
暫くその意味を考えていたが、やがて意味に気がつくと、眉間に皺を寄せ立ち上がった。




延々と降り続く雨を見上げ、セラが歌っていた。
優しく、そして、どこか哀愁に満ちた歌を。


「何をしている、セラ」


無遠慮に、歌をさえぎる声が聞こえた。
はっと振り返ると、そこには相変わらず瞳に灰色を映したゲイルが立っていた。その視線の冷たさに思わずセラは立ちすくむ。

作られた闇夜の中、視線を交し合う二人。
歪な沈黙を破ったのは、ゲイルだった。

「睡眠不足は正常な思考を奪うだけでなく、健康面にも影響を及ぼす」

淡々と、ただ事実のみを述べた言葉に、ほんの少しセラも安堵し、口を開く。

「うん……わかってる……」
「ならば何故寝ない」

ゲイルの言葉は、常に真実だけを追い求める。心では無く、表面を、その先に通じる意味を。そして、それを他人にも求める。
だから――

この気持ちなど、決して言っても分かるまい。

沸きあがる不安と不審に、ほんの僅か躊躇い、それでもセラは口を開いた。


「……あのね……時々、恐くなるの……」


はっきりと。
ゲイルの眉間に皺がよるのが見て取れた。
己を鼓舞するよう、己の不安をかき消すよう、セラは両手を合わせる。
それはまるで、祈りに似て。


「これは、本当は、全部夢だったら、とか寝てる間に皆居なくなっちゃったらとか…時々ね、本当に時々だけど、そう思って…」
「理解不能だ」


夢も祈りも希望も何もかも。


全てをかき消し、ゲイルがため息をついた。いや、恐らくはため息に似た何かを、吐き出す息に載せて消し去ったと言うべきか。


「俺達がお前の夢であるはずが無い。それに、お前の有効性については皆知っている。置いていくなどと言う事は論外だ」

端的に、全く常と変わらず、己の意見を述べ、ゲイルは背を向けた。

「明日は早い。今のうちに寝ておく事を進める。途中で倒れでもして計画に支障が出ても困る」





「…うん。ありがとう、ゲイル……」
「何故礼を言う。俺はただ、作戦の成功率を上げるために……」
「いいの。私が言いたかっただけだから。じゃぁ、お休み、ゲイル。…作戦、成功すると良いね」

にこり、と、まるで今までの不安はまやかしだったかの如くに微笑み、セラは、アジトの中へと消えていった。

「……理解不能だ」


一人残されたゲイルが、どこかしら釈然としない気持ち(いずれは忘れるのだろうが)を抱えていることなど露知らず。





貴方の傍に居られたら
皆と一緒に居れたなら
私はそれだけで幸せだから

この幸せが、ずっと続いて欲しいから
どうかお願い、“今”のまま時を止めて





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